大阪家庭裁判所 昭和59年(家イ)1794号 審判 1984年6月25日
申立人 (出生届未了)章
申立人法定代理人親権者母 田原昌子
相手方 マイケル・ボーン
主文
申立人と相手方との間に親子関係が存在しないことを確認する。
理由
一 昭和五九年六月一一日の本件調停委員会の調停において、当事者間に主文同旨の合意が成立し、その原因たる後記認定事実についても当事者間に争いがなかつた。
二 一件記録〔関連事件当庁昭和五九年(家イ)第一七九三号、第二二五九号夫婦関係調整事件記録を含む〕及び審問の結果によれば、次の事実を認めることができる。
1 申立人の母は、仕事の関係で、バンドマンとして来日していたフイリピン国籍の相手方と知り合い、昭和五一年三月八日婚姻し、以来相手方がビザの関係で一時帰国することはあつたものの、もつぱら大阪市内で婚姻生活を送つていた。しかしながら、申立人の母に異性関係が生じたことから、昭和五六年五月ころ両者は完全に別居し、その後二人の間に夫婦関係はなかつた。
2 申立人の母は、相手方と別居後日本人の谷川照夫と同棲するに至り、同人との間に申立人を妊娠し、昭和五九年一月二七日申立人を分娩した。
三 本件においては、申立人及び相手方が日本国内に住所を有しており、わが国の裁判所が裁判管轄権を有する。
四 法例一七条によると、子が嫡出であるか否かは、その出生の当時母の夫の属した国の法律によつてこれを定めることとされているので、申立人が相手方の嫡出子であるか否かは、相手方の属するフイリピン共和国の法律によつて定めることになる。
フイリピン共和国民法第二五五条前段によると婚姻成立の日から一八〇日以後、又は婚姻解消もしくは配偶者の別居の日から三〇〇日以内に出生した子は嫡出子と推定されるのであるが、同条後段は、子の出生前三〇〇日のはじめの一二〇日の期間において夫が妻と性交することの物理的不可能性(夫婦が性交不可能な状態で別居していたこと等)をもつて上記推定に対抗しうるものと定めている。
そうすると、上記2認定の事実によれば、申立人は、その母と相手方が別居後二年半以上経過後に出生しており、嫡出推定は及ばず、結局本件においては、申立人と相手方との間に父子関係が存在しないものと認められる。
五 よつて、前記合意は正当と認められるので、家事審判法二三条を適用して、主文のとおり審判する。
(家事審判官 桐ケ谷敬三)